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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)8874号 判決 1956年9月14日

原告 木内つる 外六名

被告 田中寿 外一名

主文

被告等は各自、原告木内つるに対し金十万七千五百四十一円六十六銭を、被告富樫倉吉に対し金十万九千百六十六円六十六銭を、原告佐藤忠衛に対し金五万二千五百円を、原告秋葉勝二に対し金五万二千九百十六円六十六銭を、原告臼田梅吉に対し金十万四千百六十六円六十六銭を、原告奥田武男に対し金十五万円を、原告最賀登久子に対し金五万千三百三十八円八十八銭を支払うべし。

原告木内つる、原告富樫倉吉、原告佐藤忠衛、原告秋葉勝二、原告臼田梅吉及び原告最賀登久子のその余の請求は棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は原告木内つるにおいて金三万五千円、原告富樫倉吉において金三万六千円、原告佐勝忠衛において金一万七千円、原告秋葉勝二において金一万七千円、原告臼田梅吉において金三万四千円、原告奥田武男において金五万円、原告最賀登久子において金一万六千円の各担保を供するときは当該原告の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は「被告等は各自、原告木内つるに対し金十二万六千七百五十円を、原告富樫倉吉に対し金十三万三千円を、原告佐藤忠衛に対し金五万九千円を、原告秋葉勝二に対し金六万五百円を、原告臼田梅吉に対し金十一万五千円を、原告奥田武男に対し金十五万円を、原告最賀登久子に対し金五万四千八百二十円を支払うべし。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決竝びに仮執行の宣言を求めその請求の原因として、被告等は銀行取引業を営むにつき銀行法第二条竝びに当時施行の貸金業等の取締に関する法律第七条の各規定に牴触することを回避するため金銭の預入及び貸付の両取引の担当者を形式上分離し被告田中等が納税貯蓄会理事長なる名においてその会員を募りその応募者に出資をなさしめる一方被告株式会社納税助成会が右出資金を運用して他に貸付ける方法により両者が実質上は一体となり共同して銀行取引の営業をなすこととし別表記載の日時原告等から右営業のためそれぞれ同表記載の存続期間を定めて同表記載の金額の出資を受けるとともに原告等に対しそれぞれ同表記載の配当率により利益の分配をなすべく約した。すなわち原告等と被告等との間に原告等各個を単位とする匿名組合が成立した。ところが被告等は右各匿名組合の期間がいづれも満了したのに原告等に対し出資金の返還は勿論利益の一部配当もしない。よつて被告等に対し原告木内つるは出資合計金十万円竝びに別表(一)、(1) 、(2) の出資に対する四箇月分及び同表(一)、(3) 乃至(6) の出資に対する十箇月分余の利益合計金二万六千七百五十円の、原告富樫倉吉は出資合計金十万円竝びに十一箇月分の利益金三万三千円の、原告佐藤忠衛は出資金五万円竝びに六箇月分の利益金九千円の、原告秋葉勝二は出資金五万円竝びに七箇月分の利益金一万五百円の、原告臼田梅吉は出資合計金十万円竝びに五箇月分の利益金一万五千円の、原告奥田武男は出資金十万円の、原告最賀登久子は出資金五万円竝びに三箇月分余の利益金四千八百二十円の連帯支払を求めるものである。仮に右主張に理由がないとしても原告等はそれぞれ別表記載の日時被告等に対し同表記載の金員を返済期は同表「存続期間」欄記載の日、利息は同表「配当率」欄記載の割合と定めて預入れた。もつとも右金銭を受入れたのは形式上被告田中寿にすぎないが被告株式会社納税助成会は右寄託金を運用して他に貸付け消費寄託の実効を収めたものであるから実質上は被告田中と共同の受寄者である。しかるに被告等は返済期が経過しても原告等に対し寄託金の返還は勿論利息の一部の支払もしない。よつてもし第一次の請求に理由がないときは予備的請求として原告等はそれぞれ被告等に対し前同金額の寄託金竝びに利息金の連帯支払を求めるものであると述べ被告等の抗弁事実を否認し仮に被告等が貸付金の回収不能により損失を蒙つたとしても本件匿名組合契約はその存続期間竝びに利益配当率を定型的に明定したものであるから組合員が損失を分担しないこと竝びに利益の有無を問わず配当をなすべきことを特約したものであると抗争した。<立証省略>

被告等訴訟代理人は請求棄却の判決を求め答弁として、被告田中寿としては原告主張事実中同被告が納税貯蓄会理事長なる名においてその会員を募り応募者から出資金を集めこれを被告株式会社納税助成会に運用せしめることとし原告等からその主張のような約定でその主張の出資を受けたことは認めるがその余の事実は否認する。被告株式会社納税助成会としては原告等主張の第一次請求原因事実は知らない。同予備的請求原因事実は否認すると述べ被告田中の抗弁として、仮に原告等主張のような匿名組合が成立したとしても営業者たる被告等は営業不振の結果出資金全額が損失に帰した以上原告等に対し利益の配当は勿論出資金の返還をなすべき義務がない。被告会社の抗弁として、被告会社がなした貸付はすべて回収不能に畢つたと述べた。<立証省略>

理由

(原告等の第一次的請求について)

原告等は被告等は銀行取引業を営むにつき取締法規に違反することを回避するため金銭の預入及び貸付の両取引の担当者を形式上分離し被告田中寿が納税貯蓄会なる名称で会員を募り応募者に出資をなさしめてこれを受入れる一方被告株式会社納税助成会が右出資金を運用して他に貸付ける方法により両者が実質上は一体となり共同して銀行取引の営業をなすこととし利益の分配を約して原告等から右営業のため出資を受けたから原告等と被告等との間には原告等各個を単位とする匿名組合が成立した旨主張するけれどもおよそ銀行取引とは金銭又は有価証券の転換を媒介する行為を謂い従つてこれが成立するためには他人から資金を取得ししかる後これを他人に貸付けること、すなわち受信取引及び与信取引が併存することを要するところ原告等の主張によれば被告等はその営業のための出資金を他に貸付けるのであるから出資者以外の第三者との関係においては自己資金を貸付ける事業をなすにすぎないこととなり従つて銀行取引をなすものとは到底謂い得ない。しかるに一方匿名組合が成立するためには商人の営業のために出資をなすことを要し又商人の観念が成立するためには自己の名を以て商法第五百一条、第五百二条の規定するいわゆる基本的商行為を業としてなすことを要するものと解すべきところ金銭の貸付のみを業としてなしても基本的商行為たり得ないからこれにより商人の営業なる観念が生じるものではなく従つてかかる事業のために出資してもこれにより匿名組合が成立する謂れはない。

そうだとすると原告等の第一次的請求は主張自体理由がないこと明らかであるから爾余の判断をなすまでもなく失当として棄却すべきである。

(原告等の予備的請求について)

原告等がそれぞれ別表記載の日時「納税貯蓄会理事長」なる被告田中寿に対し同表記載の金員を給付したことは被告田中寿に対する関係においては当事者間に争がなく被告株式会社納税助成会に対する関係においては成立に争のない甲第一乃至第十三号証、同第十四号証の一、二によりこれを認めることができる。

しかして右認定事実に被告田中に対する関係においても成立に争のない前出甲第一乃至第十三号証、同第十四号証の一、二、証人河内桃太郎、同酒井吉実の各証言竝びに右証言により真正に成立したものと認める乙第一号証、証人根本直三郎の証言、原告木内つる及び被告会社代表者の各本人尋問の結果を併せ考えると、被告会社は貸金業を行うにつき貸付及び資金の受入を分離し形式上後者を他人に行わせその受入金を貸付に運用すべき方策を樹て被告田中からその氏名を使用して右営業における資金受入の部門を行うことの許諾を受け同被告に「匿名組合納税貯蓄会理事長」なる肩書を与えその名において「被告会社に貸付投資して生じる利益を出資金に対する一定の利率によつて計算しこれを組合員に分配すること、組合員には商法第五百三十五条による匿名組合の出資証書を交付すること、利益の分配は年二割以上とし一箇月毎に右証書に附した利札に金額及び支払期日を予め記入しその期限到来と同時に支払うこと、出資契約の期間が満了したときは出資金を返還すること、組合員から中途解約の申出があつたときは出資金全額を即時返還清算すること、組合員は損失を分担しないこと」等の約定を掲げて右にいわゆる組合員を勧誘し申込者に右にいわゆる出資をなさしめこれを貸付に運用したこと、原告等はいづれも勧誘を受けて右契約に基きそれぞれ別表記載の期間竝びに配当率を定め前記のように金銭の給付をなしたものであること、しかし実際には右契約の勧誘、締結竝びに金銭の授受はすべて被告会社の従業員によつてなされしかも被告会社はかくして受入れた金銭につき被告田中との間において借入の契約関係を設定することなくこれを直ちに自己の名を以て貸付に運用したものであること、なお右利益分配の約定は利益の有無に拘らず行う趣旨であつたことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。

そこで右認定事実により契約の種類、性質につき考えてみると、およそ匿名組合とは当事者の一方が相手方の営業のために出資をなし相手方がその営業から生じる利益の分配をなすべきことを約することによつて効力を生じる契約を謂い従つて利益の有無に拘らず出資金に対する一定の利率の金銭の支払を約するようなことは匿名組合の性質に反する。しかし又その出資の目的は商人の営業のためであることを要し商人の営業と認められない事業のためであつては足りない。しかるに本件契約には利益の有無に拘らず給付金額に対する一定利率の金銭を一定時期に支払う旨の約定が存する。のみならず本件契約において一応出資の目的として掲げられたものは被告会社に対する貸付投資にすぎずおよそ商人の営業と謂うに当るものではない。もつともこの点については後記認定のように被告会社が本件契約につき履行の責任があるものとすればその行う貸金業が出資の目的として考えられることともなるが本件契約竝びにこれと同趣旨でなされる契約が匿名組合であることを建前とする限り被告会社の行う事業は金銭の貸付のみとなり勢い第一次的請求につき説示したと同様の理由で匿名組合たる建前が崩れざるを得ないのであつて自己撞着に陥ることになる。従つていづれの点からしても本件契約が匿名組合であるとは到底解することができない。しかして本件契約においては契約の種類が「商法第五百三十五条による匿名組合」、金銭を給付した当事者が「組合員」、金銭の給付が「出資」、これに対する一定利率の金銭の支払が「利益の配当」と呼称されているけれども契約の種類、性質がかような文言のみにより決定されるものでないことは謂うまでもない。それでは本件契約はいかなる種類の契約があるかどうかと謂えば、本件契約において当事者の一方が相手方に金銭の運用を託してこれを給付し相手方がその委託に応じ一定の時期に右金銭の金額の返還竝びにこれに対する一定利率の金銭の支払をなすべく約して右金銭を受取つたことは少くとも動かし難い事実であるから他に特段の事情がない限り別表「存続期間」の欄記載の日を返済期、同表「配当率」の欄記載の率を利息の割合とする利息附消費寄託であると解するのが相当である。

次に前記認定の事実に徴すれば被告会社は貸付資金を得るために考案した単なる取引の便法として被告田中に「匿名組合納税貯蓄会理事長」なる肩書を与えその名義を使用して本件契約をなしたものであること、換言すれば被告田中は本件契約につき自己の名義を使用することを許諾したに止まり右契約を自らなしたものでないのは勿論これにつき代理権を被告会社に与えたものでないことが推認される。しかして被告会社が本件契約竝びにこれと同趣旨でなされる契約により資金の受入をなし他面これを貸付に運用して銀行取引に類する営業をなすものであることは以上認定の事実により結局明らかとなつたが本件契約が前記認定のように被告田中を理事長とする「匿名組合納税貯蓄会」なる名義を用い且つ受入金を被告会社に貸付けその運用に委ねると謂う目的を掲げてなされた事実からすれば原告等は被告田中を営業主であると誤認し且該誤認につき過失がなくして右契約をなしたものであることを推認するに難くない。従つて被告会社は原告に対し被告田中の氏名を用いてなした本件契約につき履行の責に任ずべく(民法第百十七条参照)又被告田中はいわゆる名板貸をなした者として原告等に対し右契約につき被告会社と連帯して弁済の責に任ずべきである(商法第二十三条参照)。

しかるに本件契約における利息の約定は当時施行の旧利息制限法(明治十年太政官布告第六十六号)所定の制限に超過すること明らかであるからその超過部分は裁判上無効としなければならない。

それならば原告等の本訴請求は被告等に対し、原告木内つるにおいて本件寄託金合計十万円竝びにその内別表(一)、(1) 、(2) の寄託金に対する四箇月分及び同表(一)、(3) 乃至(6) の寄託金に対する十箇月分余の利息合計金二万六千七百五十円を右制限内たる年一割の割合に引直して計算した金七千五百四十一円六十六銭の、原告富樫倉吉において本件寄託金合計十万円竝びにこれに対する十一箇月分の利息合計金三万三千円を右同割合に引直して計算した金九千百六十六円六十六銭の、原告佐藤忠衛において本件寄託金五万円竝びにこれに対する六箇月分の利息金九千円を右同割合に引直して計算した金二千五百円の、原告秋葉勝二において本件寄託金五万円竝びにこれに対する七箇月分の利息金一万五百円を右同割合に引直して計算した金二千九百十六円六十六銭の、原告臼田梅吉において本件寄託金合計十万円竝びにこれに対する五箇月分の利息合計金一万五千円を右同割合に引直して計算した金四千百六十六円六十六銭の、原告奥田武男において本件寄託金十五万円の、原告最賀登久子において本件寄託金五万円竝びにこれに対する三箇月分余の利息金四千八百二十円を右同割合に引直して計算した金千三百三十八円八十八銭の各連帯支払を求める限度において正当として認容すべく原告木内つる、原告富樫倉吉、原告佐藤忠衛、原告秋葉勝二、原告臼田梅吉及び原告最賀登久子のその余の請求は失当として棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条但書を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎)

別表

出資者

出資日時

出資金額

存続期間

配当率

昭和年月日

至る昭和年月日まで

(一)

原告 木内つる

(1)

二八、一二、二四

一〇、〇〇〇

二九、 六、二四

月二分五厘

(2)

一〇、〇〇〇

(3)

二九、 一、 五

五〇、〇〇〇

三〇、 一、 五

三分

(4)

一〇、〇〇〇

(5)

一〇、〇〇〇

(6)

一〇、〇〇〇

(二)

原告 富樫倉吉

(1)

五〇、〇〇〇

(2)

五〇、〇〇〇

(三)

原告 佐藤忠衛

二八、 九、二四

五〇、〇〇〇

二九、 九、二四

(四)

原告 秋葉勝二

〃  一〇、二六

五〇、〇〇〇

〃  一〇、二六

(五)

原告 臼田梅吉

(1)

〃   九、二四

五〇、〇〇〇

〃   九、二四

(2)

五〇、〇〇〇

(六)

原告 奥田武男

二九、 一、三〇

一五〇、〇〇〇

〃   七、三〇

(七)

原告 最賀登久子

〃     一一

五〇、〇〇〇

〃     一一

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